nodathon’s blog

マラソン、映画、その他生活の中で感じたことを書きます。

映画感想 名もなき生涯 

映画の感想です。

久しぶりに映画館で映画を見ました。

 岡山市のシネマクレールで、「名もなき生涯」というタイトルです。

その感想を綴りたいと思います。話のあらすじは書かないので、公式サイトでご覧ください。

 

そもそもなぜ見ようと思ったか

私にとって、ぜいたくな時間の使い方の一つが、「映画館で」映画を見る事です。2時間もの間、一人で何か一つのことに没頭できることは、 子どもが生まれてからかなり貴重な時間となったからです。

なので、妻子が里帰りする際にはここぞとばかりに映画館に行くことになるわけです。

 

8/1 に行く予定だったので、その日の上映スケジュールを見て選びました。

一度も撃ってません、おかあさんの被爆ピアノもありましたが、普段とは全然違う世界感に没入したかったので、名もなき生涯を選びました。

http://www.cinemaclair.co.jp/img/i5f22c9c6c4135.jpg

 

映画の概要

公開:2019年製作

時間:175分
原題:A Hidden Life
配給:ディズニー

監督:テレンス・マリック

公式サイト

http://www.foxmovies-jp.com/namonaki-shogai/ 

 

監督の人が有名だそうですが、私は事前知識がありませんでした。

なので映像がきれいそうだということと、家族をテーマに人間の心情を描いた

作品という点でこれは見に行かなくてはとなりました。

 

 

感想(鑑賞後の気持ち)

まず、この映画は、ハラハラドキドキの展開があったり、謎が最後にとけてスッキリしたり、 主人公のサクセスストーリーを見て自分も頑張ろうという気持ちになるような話ではありません。

 

私の場合は、観終わった後は、こわばった顔になって、なんだか人生そのものから色合いを失われた感覚になりました。

一言でいう「喪失感」が激しく高ぶった映画でした。

 

 

感想(時間)

3時間近くありますので、長いです。飽きないか・トイレに行きたくならないか心配でしたが、自分は良い感じの集中力を保つことができました。多分周囲の人もそれなりに集中されていたと思います。集中が続いた理由は後述のことだと考えています。

 

 

感想(映像)

映像がとびぬけてキレイです。オーストリアの山と谷に囲まれた美しい村で、妻のフランチスカと3人の娘とともに穏やかな生活を送っています。

カマで草を刈ったり、芋を収穫したり、村のお祭りがあったり。その様子が丁寧に描写されていて、一つ一つのシーンがそれだけで絵画やポスターにできるくらい素晴らしいです。風景の美しさは日本の棚田と通じるものがあると思いました。

 

 

感想(カメラワーク)

詳しくはわからないのですが、カメラワーク的にも独特だと思います。主人公を始めとして、各登場人物の感情を描写する時には、かなりの顔ドアップになり、人間くさい葛藤や逡巡が表現されます。顔ドアップの中でも、顔をいろんな角度から移したり、風景と重ねる事で、人の感情の複雑さを表現したかったのだと思います。 

 

 

感想(セリフ)

途中から気づいたのですが、セリフが少なめです。セリフは少ないのですが、主人公や妻の顔のアップが続き表情がよくわかりますので、何を考えているのかは、観ている人の想像で補うことができます。観る人によっては各シーンの受け取り方が違うのではないでしょうか。

 

 

感想(字幕) 

主人公や妻のセリフ(英語)は字幕があるのですが、他の登場人物の中でドイツ語(オーストリア語?)の部分は字幕がありません。しかもそれなりに長いセリフなのにです。あと、たびたび引用されるヒトラーの演説にも字幕がつきません。

 

なぜ字幕を付けなかったのか?

 

どう考えても「わざと」つけなかったのだと思います。おそらく、ここで伝えたいことがそのセリフの内容そのものではなかったのでしょう。観ている側としては、何を言っているかわからない分、背景や情感だけで理解するしかないので、なぜそのセリフに至ったのか、それを受けて主人公や妻はどう感じる

のか?に思いを馳せる事ができます。私は無理に字幕を持ってこなくてよかったと考えています。

 

 

感想(人物)

主人公フランツ:

 家族を愛しています。しかしヒトラーを拒絶するという信念を持っています。その信念ゆえに、ナチスに拘束され最終的には死刑になります。「なぜヒトラーを拒絶したか」については多くは語られません。

 

主人公の妻フランチスカ

 主人公を愛し、その信念を最後まで支持します。しかし、それゆに農村では村八分にされ、主人公の母親からは主人公がおかしくなったのは妻のせいだと揶揄されます。

 

感想(テーマ)

この映画を表す言葉は「不条理」です。後半からとにかく不条理をこれでもかとぶつけてきます。拘置所の中でのリンチや、農村での村八分ヒトラーを拒否したというだけで、なぜそんな仕打ちを受けなければならないのか。農村で自給自足で暮らしている人間が、なぜ他国の人間を殺す訓練をするのか。

  

感想(タイトル)

フランツが死刑になると確定した辺りから、タイトルの意味がわかってきました。

作中の中で何回か、主人公は問われます。

 あなたが拒否することで何が変わるのか?

 誰かがそれを聞いて行動を変えるのか?

 誰もきいちゃいない。

 なら、意味のない抵抗をやめて、自由になったらどうか

 

しかし、主人公にとっては、例え拘束から解かれ、家族の元に帰ることができても、ヒトラー服従するのであれば自由ではないと考えます。自分が死刑となり、家族を不幸にしてもです。

 

もちろんこういった形で映画化されたのですから意味はあるかもしれませんが、どう考えても分別をもった大人の行動とは言えません。言い方を変えると犬死です。死んだことが何の役にも立ちません。

 

ドイツとオーストリアの関係性も詳しくわかりませんが、ドイツで起きている意味のわからない政治パフォーマンスにオーストリアの農夫が巻き込まれ、遂には死刑になり、タイトル通り「名もなき生涯」を終えます。そこに激しく不条理があり、喪失感、絶望感が生まれるわけです。 

 

感想(メッセージ) 

この映画から受け取るメッセージって何なのでしょう。

考えてみました。

 人生は不条理だ

 例え周囲を敵に回しても信念をつらぬくべきだ。

 当時のドイツは狂っていた

 農夫の感覚は正しかった。

 

なんだがどれも的外れな気がします。。

観ていて思ったのは、私にはこの農夫と同じ行動はできないし、特に家族を不幸にしてまで、自分の信念を貫くにのはわがままで頑固に過ぎます。

 

 ①家族を愛している

   →つまらない信念は捨てて家族が幸せに過ごせるようにする。

 ②家族を愛している

   →信念を貫く様を見せつける。

 

②のほうが長い歴史の中では賞賛される可能性もありますが、私には人間として著しくアンバランスだと感じました。

 

感想(よくわからなかったこと) 

セリフの少なさと、たぶん文化的な背景の違いから、理解できないシーンもたくさんありました。

 

主人公

・死刑を言う前の裁判官が判決前に個人的に接触し、真意を聞いている 

 毎日多くの受刑者がいるはずなのに、なぜ主人公にだけ手厚いのか?

・死刑直前に、訓練所で一緒だった友人と再会する。

 その友人は何の罪だったのか?死刑になったのか?

・死刑が決まってから妻に面会できたが、それまではなぜできなかったのか。

・夫婦間での手紙でのセリフがあるが、実際に手紙のやりとりはされたのか。

 

村八分になっているのに、共同作業(みんなで草刈り)には参加している。

・なぜか時々助けてくれる人がいる。

・井戸が枯れたのに、困窮していない。

・死刑が決まっても子供に父親のことを説明するシーンがない。

 

野暮かもしれませんが、長い映画なので、想像する時間が多く与えられるため、上記のような当然あるべきじゃないかという説明がないことが気になります。

 

 

感想(最後に) 

正直、家族や友人に積極的に勧めたい映画ではありません。でも、「その映画について語りたい」ランキングではまあまあ上位です。前述のように観た側の受け取り方の自由度が豊富なため、いろんな角度から論考・検証できるためです。おそらく同じ映画を見た人でも私の気づかなかった点を多く抱えたはずです。

普段とは違う世界を体験できるのが映画ですし、これほどの不条理を政治的主張無しに描いた作品はなかなか無いと思います。

ヒトラーとは何だったのか?という起点でも、人生とは、家族とは何か?という起点でもこの映画に身を委ねるのは一つのアプローチだと思います。

 

あと、この監督の映画のつくり方(伝説の映像作家と呼ばれているのですね)の特徴も好きなので、他の作品も見てみたくなりました。

 

 以上、感想でした。